レース展開

R.ミレン
さて注目のレースは午前9時30分にスタートを迎えた。高まる緊張と期待の中、まずスタートしたのはエキジビションクラス。そしてレースはハイパフォーマンスショールームストックと進む。
このクラスの注目は、ロッド・ミレン選手の息子であるリース・ミレン選手が12分を切る11分57秒の好タイムを記録し注目を浴びるが、レースはコースアウトなどアクシデントでたびたび中断。予定時刻の11時30分を大幅に過ぎた12時10分頃、ついに大会のメインイベントである、スズキの出走するアンリミテッドクラスが開始される。
今日の路面コンディションは今まで最高。適度に高い気温と路面温度、コースは勿論ラフで、降雨による溝も多いがグリップは良さそうとの判断で今まで使用していなかったドライ用の硬いコンパウンドのタイヤを使用し、タイムアップを図ることにした。ただ、このタイヤは、今までウエットでしか走行していない粟津原選手はテストすると事が出来なかったものだ。しかしこの決勝にすべてをかけるスズキ勢は、少しでもタイムの縮まる可能性のあるタイヤを選択した 。

グランドエスクード、スタート
グランドエスクード、ゴール
まずはグランドエスクード、粟津原選手のスタートだ。スタート地点を覆う様な赤いSWTのユニフォームに身を包んだスズキの応援団が見守る中、粟津原選手が猛然とスタート。その迫力の凄まじさに思わず歓声があがる。
「とにかく全開で行く」と言ってスタートした粟津原選手は、初めてのドライ路面と初めてのコンパウンドを使用したタイヤで、意外にすべるマシンをクレバーにコントロールし次々とコーナーを駆け抜けていく。途中の最高速は時速121.9マイル(約200キロ)を記録するなど、初めてとは思えない走りを見せた。そしてゴール。タイムは11分01秒77!!
さすが粟津原選手、ここまでのトップタイムを叩き出す 。

エリオ、スタート
続いて田嶋選手のスタートとなる。
パイクスの記録更新を狙っている事は観客のすべてが良く知っている。
スタート地点は一瞬にしてピリピリとした緊張に包まれる。その緊張を砕くように、はじけるようにスタートしていく田嶋エリオ。その迫力と速さには、スズキの応援団のみならず地元コロラドの観客たちも思わず歓声を上げる。
すぐさまスタート地点から姿を消す田嶋エリオの姿を見るために、応援団の一行はブースのテレビモニターを食い入るように見つめる。
田嶋選手のピクニックグラウンドでの最高速は、なんと時速132.6マイル(約212キロ)ものスピードを記録した。
DriverRadarSprit time
田嶋 伸博132.6マイル1分47秒31
粟津原 豊121.9マイル1分57秒11
Gary Kanawyeer123.0マイル1分53秒61
Jimmy Olson111.4マイル1分56秒71
David Donner107.4マイル1分57秒09

中間地点であるグレンコブも時速125マイルで通過する。これは歴代でもトップのスピード。ここでのタイムはこの時点では正確にはわからないが、やはりレコードタイムを塗り替えている事は間違いない。嫌がおうにも10分の壁を破るレコード更新への期待が高まる。会場全体が熱い空気に包まれる。スズキの技術がこのパイクスで見事な成果を結びつつあった。
スズキのブース内にも歓声があがり、皆食い入るようにテレビの画面を見つめている。中継のアナウンサーも英語で絶叫する 。

しかし、グレンコブを過ぎた険しい山岳路で異変が起きた。
タイトな右コーナーを過ぎたとき、パッと白煙が上がった。次のコーナーを抜ける際の姿勢がおかしい、これまでのスピードと全く違う。気のせいか!! ブース内に緊張が走る。しかしその後のストレートでは凄まじい加速を見せる。一安心したのも束の間、やはりコーナーでの進入速度が異常に遅い。トラブルだ。これで新記録への期待はついえた。同時に田嶋選手の優勝もなくなった。それでも田嶋選手は、傷ついたエリオをゴールに導くためにアクセルを踏み続けたが、ゴールまであと1マイル、約1.6キロを残しついにリタイヤとなった。スズキのブース内に悲鳴とも言える声が響く。しかし、事実は冷酷なものだ。
リタイヤはリタイヤ。ブースはなんともいえない重苦しい雰囲気に包まれた。
中継のアナウンサーも絶望の声を上げる。ここにいるすべてのファンや関係者が、田嶋選手の新記録を期待していたのだ。しかし残念ながらその夢はかなう事はなかった。

粟津原選手の記録である11分01秒77は初出場、初めてのコース、初めてのマシン、初めてづくしの彼にとっては立派なものであるが、後に控えるオープンホイールやパイクスピークオープンクラスの選手達にとって決して破れないタイムではない。
スズキの関係者はここで勝利を半ば諦めかけた。

スタート地点は大雨に
競技はここで一度中断されインターバルに入った。しかし何と言うことだろう。ここで天候が急変、雷を伴った物凄い雨がパイクスを襲った。スタート地点は大雨、山頂周辺はなんと雪。とんでもない事になった。
ゴールの山頂は吹雪に
スタート地点でも雨はしばらく止まず、路面は完全にウエットと化した。この事が意味する事、それは路面が濡れる事で滑りやすくなるため粟津原選手のタイムを後続の選手が破れないかもしれないということ。路面のコンディションが一瞬で変わるというパイクスの怖さが。ここでスズキに味方し勝利を演出してくれるのでは? という期待がスズキ勢に沸いてきた。

ここで粟津原選手が頂上から戻ってきた。ここまでのトップタイムという事で暫定1位となった彼を大きな拍手と熱狂的な粟津原コールが迎える。

粟津原選手コメント
ゴール後の粟津原選手
「応援ありがとうございました。なかなか初めてというのはやはり難しいもので、アクセル全開というわけにはいきませんでした。ドライという事で少々固めのタイヤを選択したのですが、もう少し柔らかいのほうが良かったかもしれません。でも自分なりに十分満足する走りは出来ました。皆さんにもらった勇気と気合で頑張れました。
今まで応援本当にありがとうございました。」
挨拶した粟津原選手には400名を超えるスズキの応援団から暖かい拍手がおくられた。

さて午後1時30分頃に再開されたレースは、パー・エクルンド選手の属するパイクスピークオープンクラスの走行となった。注目のパー選手は途中タイヤのパンクで12分8秒30の平凡なタイムに終わり、続くジャンピエール選手も11分34秒に終わる。
この段階で路面がかなり滑りやすくなっていることが証明され、粟津原選手の総合優勝への期待が高まった。しかし、次に控えるのは悪路に強いオープンホイールクラス。
特にデビッド・ドナー選手、ゲーリー・カノーヤ選手などはドライなら10分30秒のタイムをたたき出す実力を持っている。路面がどのくらい滑りやすいのか? 粟津原選手の総合優勝への期待は、その一点となった。


注目のオープンホイールクラス

D.ドナー
注目のオープンホイールクラスの走行が開始される。残り3台を残して粟津原選手の記録を抜くものはまだいない。期待が高まる。
クラス最終の3台が次々とスタート。まずは44番のオルソン選手、続いてドナー選手、そしてカノーヤ選手。中間地点の最高速は116マイル、田嶋選手の10マイル落ちだ。
これなら本当に優勝できるのでは? 嫌がおうにもスズキブースの優勝への期待が高まる。
しかし、粟津原選手自身は冷静だった、「雨でコンディションが違ってしまったのは僕の実力ではない。滑りやすい事を願うのはフェアではない」と語った。この態度はスポーツマンとして立派な態度といえる 。
G.L.カノーヤ

ガッツポーズの
粟津原選手
結局、このラスト3台のタイムはすべて粟津原選手のタイムを上回る結果となった。
特にカノーヤ選手は10分39秒76の最速タイムを叩き出し、文句のつけようがない速さを見せ優勝を飾った。雨の後、滑りやすい路面というハンディを克服し素晴らしいタイムを出したカノーヤ選手、他2名の選手の活躍は見事なものといえるだろう 。

波乱に満ちた第79回パイクスピークインターナショナルヒルクライムはここに幕を閉じた。

残念ながら田嶋選手はリタイヤという結果となった。しかし中間タイム、最高速など途中まではすべて歴代の記録を塗り替える驚異的な速さだった。
この事でスズキのファンだけでなくすべての関係者が田嶋選手とスズキエリオが来年その夢をかなえる事を期待する事となった 。

チームメイトの粟津原選手が見事にクラス優勝を獲得。総合優勝は逃したものの初出場での総合4位は賞賛に値する。また同様に2年目をどう走るか、粟津原選手にも大いなる期待が寄せられている。

パイクスの地元、コロラドスプリングスでは早くもスズキチームの出場を願う声が起きている。それだけこのレースに対してのスズキの貢献が認められているのだ。
この期待に応えるべく、スズキはさらにその技術を磨き勝利に向かって進み続ける 。

田嶋選手
「いやー、途中まではこれまでで最速タイム、最高速を記録していたのに本当に残念です。
途中でフロントサスペンションに異変が起きても絶対にあきらめないでゴールを目指したんですが、途中で走れなくなってしまいリタイヤという事になってしまいました。
皆さんのご期待に添えなくて本当に残念ですが、これがレースです。また来年、是非粟津原選手と走って、今度こそ1位2位独占といきたいです。スズキの技術を持ってすれば必ず実現できると確信しています。」

最後まで本当に何があるかわからないのがモータースポーツだ。
しかし、これで終わらせるわけには行かない。
来年も、スズキのパイクスへの挑戦は続く。

今回は改めてパイクスの難しさ、厳しさを知る結果となりましたが、ここパイクスにわざわざ足を運んでくれた400名もの大応援団と、そして遠く日本から応援してくださったスズキのファンの方々、またすべてのレース関係者、主催者、ファンの皆様に、厚く御礼申し上げます。