61年ぶりに社是を改定しました。従来は、社是の第一に“消費者”と表記していましたが、“お客様”の方がより相応しいという社内提案により見直しをしました。
2023年1月に発表した“2030年度に向けた成長戦略”を策定するにあたり、創業の原点である社是に立ち返りました。創業者である鈴木道雄は「母を楽にしたい」という想いで織機を製造し、その評判を聞いた近所の人からも使いたいという声をもらい、お客様の声を直接聞き、改良を重ねていきました。まさに「お客様の立場になって」価値ある製品を作る原点がそこにありました。自己満足で商品を開発しても、お客様には使ってもらえませんので、お客様に「これが欲しかった」と言ってもらえるものこそ「価値ある製品」であると考えます。今回の改定には、社員一人ひとりが“お客様”を意識して、“価値ある製品“とは何かを見つめ直す機会にしてもらいたいという想いも込めています。
組織が大きくなるとどうしてもお客様との距離が遠くなる傾向があります。お客様の声は営業やサービスが直接聞きますが、その声を商品に活かすためには、設計や開発の現場まできちんと届けなければなりません。相談役の鈴木修は常に「中小企業型経営」と口にしていました。小さな組織であれば、人と人がつながり、お互いの顔が見えて、素早い意思決定による「小・少・軽・短・美」を実践できますが、大きな組織になると経営陣と現場の間では距離が生まれ、意思の疎通が滞りがちです。人と人との距離の近さ、正確かつ素早いコミュニケーション、そこから生まれる意思決定の速さという中小企業のような柔軟性を私も継承していき、「現場・現実・現物」で現場に赴いて対話を図っていきます。
代表取締役社長
鈴木 俊宏
私たちが目指す姿として、人々の豊かな生活のために尽くす企業であることが挙げられます。生産・販売・調達・開発と産業の裾野を広げることで、進出国・地域の経済発展に貢献してきました。人々の生活に寄り添って地域を支えることが、私たちにとって変わらぬ使命だと認識しています。また、過去の成功体験に執着することなく、本当にお客様が求めているものをしっかり見極めた製品やサービスを追究していくことが必要です。カーボンニュートラル達成に向けた電動化の取り組みにおいても、ガソリン車に置き換わるEVを提供するのではなく、スズキの得意とするコンパクトカーの構造・特性を活かした地球環境にやさしいモビリティを開発していきます。また、今の使われ方を徹底的に調べて、生活の一部を支えるエネルギー源としてもEVを活用してもらうなど、環境問題の解決に加えて、一人ひとりの生活に役に立つことは何かを追い求め続ける企業を目指しています。
将来の絵を描き、全社一丸となって挑戦する方向性を示すために“2030年度に向けた成長戦略”を策定しました。これまで、従業員に対してこうした方向性を示すことができていませんでしたので、私にとって大きなターニングポイントになったと感じています。目標売上高7兆円は、2022年3月期の3.5兆円から倍増であり、簡単な挑戦ではありませんが、頑張れば手の届くところとして設定しました。目標達成のため、社員のベクトルを合わせ、一人ひとりの業務にまで落とし込み、時代がどう動いているのか、お客様が何を求めているのかを的確に把握し、社内で連携するコミュニケーションが大事だと考えています。この半年の間でも社員が変わろうとしている小さな鼓動が、大きな動きになりつつある手応えを感じています。「激動の時代の中で動静を見極め、行動を起こす、活動を起こす、躍動するチームスズキを作り上げる」ため、常に動き続けていくことで、成長戦略の実現に向けた歩みを進めていきます。
インドのカーボンニュートラル社会の実現と農村地域の発展に向けてバイオガス事業にも挑戦しています。これはインドの農村部に多い牛糞などの酪農廃棄物を原料として、バイオガスの製造・供給とバイオガス精製過程で発生する固形物・液体を有機肥料とするものです。この牛糞で製造したバイオガスはCNG車に活用することが可能な燃料となります。また、牛糞を原料にすることで農家の新しい収入源の一つとなり、地域農業の発展に貢献できるものと期待しています。さらにその先には、インド全体に供給することや発電所建設も視野に入れています。
インド政府系の全国酪農開発機構、アジア最大規模の乳業メーカーとスズキの3者間で4つのバイオガスプラントをグジャラート州に設置することで合意をし、着々と歩みを進めています。今後も、利益追求だけでなく、インドの発展にどれだけ貢献できるかを考えた事業展開を図っていきます。
会社は「人の集まり」であり、人的資本の充実が不可欠です。お客様の期待に応え、スズキのファンになってもらうこと、この原点に立ってものづくりに取り組むことを私たちは絶対に忘れてはいけません。当社グループの社員一人ひとりは高い能力を有していますので、社員は自分がどういう能力を持つべきかを考え、目的意識を持って仕事に取り組むこと、会社はその能力を高める教育に取り組むことで、組織力が最大化されていくと考えています。また、インドの人材はソフトウェアの開発分野で非常に優れており、こうしたグローバルな人材をより一層強化し、社内外の関係を深めていきます。
ガバナンス・コンプライアンスの強化については、過去の燃費不正や完成検査不正といった問題を深く反省し、「リメンバー5.18活動」を推進しています。具体的には、関連する法制や社内規程の目的・背景を理解し、一人ひとりの業務と紐づけて徹底的に見える化した上で、「逃げるな・隠すな・嘘をつくな」のスローガンのもと、社員自ら問題点を申告してもらう環境づくりもしています。この過程を通じて、私自身あらためて感じるのは、成功体験だけで過ごして来たらここまで事業を続けることができなかったのではないかということです。企業というのは生き物であり、常にさまざまな問題に直面します。そこで、何が正しいのか、何をやるべきかを考える力を養うことで、従来は弱みであったものが、今では強みになりつつあると感じています。もちろん、不正は決して許されることではありませんが、「リメンバー5.18活動」で試行錯誤を重ねながら業務の見直しに取り組んできたことは評価できるのではないかと認識しており、今後も継続して活動していきます。
私たちの強みは、「小・少・軽・短・美」を徹底したものづくりを、「現場・現物・現実」に基づいた判断のもと、「中小企業型経営」によるスピード感を持って事業展開にあたってきたことだと考えています。この3つの行動理念はスズキの強みであり、絶対に失ってはいけないものとして、しっかり継承するとともに、さらに磨きをかけていかなければならないと肝に銘じています。
私たちは、今は“生活を支えるモビリティ企業”ですが、今後は“生活に密着したインフラ企業”を目指していきます。そして、地域社会の発展のためのお役に立ち、ともに成長する活動を継続していく決意です。
ステークホルダーの皆様には、私たちの活動をしっかり見守っていただくとともに、ファンになっていただき、今後のスズキにご期待いただきたいと思います。