【閑話:秋ですね、車の話をしましょう。】
ちょうどこれくらいの時季だった。
暑さが和らいで時々台風に
さらされるこの季節。
ひとりの老人とディーラーを訪れた。
今日の用事はいつもの点検ではない。
慎重に切り返しながら
バックで駐車するが、
少し斜めになってしまった。
その人はパリっとした野球キャップを
かぶり、若々しく見えるものの
運転席のステップを片脚ずつ順に
ゆっくりとまたいで降りる姿は
いささかおぼつかなかった。
そして出迎えのスタッフに対して
少し言い出しにくそうに伝えた。
「あの、車を手放そうと
思っとるんだが、
どうしたらええかな?」
まだ初回車検前のきれいな車を見て
スタッフは一瞬意外だ
という表情をしたが
「先に査定をしてみましょうか」
と話を進めた。
聞くところによると75歳を過ぎた
その人は免許証の返納を機に
車を手放そうと考えているそうだ。
「こないだ、免許の更新があって、
認知機能の試験があったのよぉ。
絵をいくつも覚えて書くんやけど
間に別の話をされて、
あれ?ってなるんよ。
もうちょいできると
思ったんやけどなぁ。」
とうとうと語る口調は
いつもみたいに失敗談を
冗談めかす口調ながら
どうにもこうにも
寂しさが拭いきれない。
今まで造作もなかったことが
できなくなっているという
事実がもどかしくもあったのだろう。
また、普段から周囲に気を配り、
安全運転を心掛けるその人にとって
運転への不安要素は
やはり好ましいものではなかったと思う。
「今回は更新できたけど
次の更新のときは自信ないでなぁ。
人様に迷惑かけるのだけは
したないし、家族にも
迷惑かけたないで返納しよ思って。」
その後も人様に迷惑かけるのは…と
繰り返し繰り返し自分自身に
言い聞かせるように話していた。
そうこうしているうちに
査定が終わり、
その後の流れの説明を受けた。
「わかりました。ありがとう。
買ってお世話になったところで
手放したいから、こちらで
お願いします。」
はじめから心は決まっていたようで
滞りなく話は進んでいった。
日取りを決めて数日後、
いよいよ引渡しの日。
書類手続きも終わり、帰りのタクシーを
待つ間もお喋りは絶え間なく続く。
「納車してもらってから…。」
「距離そう走ってないけど、
どっこも調子悪くなくて…。」
「あの時あそこへ行って…。」
「孫がな、ハスラーのこと…。」
楽しそうに、少し寂しそうに
語り続けた。
そして、タクシーが来たことを
告げられると、その人は
「ほんとにお世話になりました。」
と言ってゆっくりと立ち上がり
自動ドアに向かう。
それから、自動ドア手前で立ち止まり
スタッフのいるカウンターに向き直り
野球キャップを取り、
「ありがとうございました!」
シャンと背筋の伸びた一礼をして
右手を軽く上げて振り向きながら
自動ドアをくぐった。
笑顔ながら、声は若干震えていた。
その背中をスタッフの
ありがとうございました、という
挨拶が追いかけた。
最後にその人は私に
「ありがとう」と小さくつぶやいて
私のほうを振り向いたまま
タクシーに連れて行かれてしまった。
これが私の最初の乗り手の思い出。
長文にお付き合いくださり
ありがとうございます。
ディーラーでは華やかな納車が
印象に残りがちですが、
時に下取りの車との別れもあります。
人によってあっさりと、あるいは
感慨深い別れもあり様々です。
今回は特に感慨深かった思い出を
フィクションとしてまとめさせて
いただきました。
最後の自動ドアの前での一礼が
非常に印象強く残っており、
どうして納車式はあるのに
返納式のようなものはないのだろうと
感じたのを覚えています。
まだ運転はできるけれど
安全のために免許証返納を
決意される姿を見て
しっかりした方ほど
返納を早くされるのかなと
思ったほどでした。
しかし、一方で車がなければ
生活に支障をきたすので
心配でも乗らざるを得ない状況も
多々あります。
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考えたときの選択肢として
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