1970年の誕生以来、進化を続け、個性を研ぎ澄ませてきたジムニー。“乗る人”目線で、新しく生まれ変わった4代目ジムニーの魅力を考えてみた。
悪路の走破性など、機能がさらに充実
2018年のクルマ業界を盛り上げている話題のひとつが、スズキ・ジムニーのフルモデルチェンジ。1998年に3代目が登場して以来、20年振りに4代目がデビューした。
では、新型ジムニーはいかなるモデルか。ひとことで言うと、「機能の追求」ということではないだろうか。ジムニーらしい伝統は維持しながら、そこに20年分の技術の進化を盛り込み、高機能化を果たしているのだ。
具体的には、車体の基本構造は40年以上にわたって採用しているラダーフレームを継承した。ラダーとははしごのことで、はしご型の屈強なフレームにサスペンションなどを取り付け、そこにボディを被せるのがラダーフレーム構造だ。オフロードで遭遇する強烈な衝撃をラダーフレームがしっかりと受け止めることで、悪路をものともしない走破性を獲得する。同時に、長年にわたるハードな使い方にも耐える、耐久性に優れた構造でもある。
ただし、単純にいままでの構造を引き継いだわけではない。新設計のラダーフレームは、はしご型フレームの階段にあたる部分にクロスメンバーを2本追加、さらにX字のメンバーで補強することで、ねじれを従来の1.5倍に高めた。結果として定評のあった悪路走破性と耐久性はさらに向上した。
また、車体とラダーフレームをつなぐボディーマウントゴムを新設計した。上下方向の動きに対しては柔らかくすることで路面のショックを吸収、良好な乗り心地を実現した。横方向の動きに対しては硬くすることで傾きを減らし、操縦安定性を向上させた。
ほかにも、エンジンを縦置きするFR(後輪駆動)のレイアウトや、前輪と後輪を直結するシンプルなパートタイム式の四駆システム、左右のタイヤをダイレクトにつなぐことで高度な悪路走破性を実現するリジッドアクスル式サスペンションなど、高い機能性を獲得するためのメカニズムを採用している。
FRレイアウトについては、前輪の先端より後ろにエンジンを積むように設計。こうすることで、前輪が前方の大きな凸凹を乗り越えるために必要なアプローチアングルを41°と、充分に確保することができた。
パートタイム式の四駆システムを採用した理由は、タフな環境で使用することを前提に、信頼性を確保するためだ。2H(二輪駆動)、4H(四輪駆動高速)、4L(四輪駆動低速)を切り替える副変速機との組み合わせで、高い脱出能力を実現する。
リジッドアクスル式サスペンションは、一般的な乗用車の独立懸架式サスペンションに比べて、悪路でもタイヤがしっかりと地面に接するという利点がある。
デザインも構造面と同様に、機能優先となっている。運転席に座った時にボディの四隅が把握しやすいことや、205mmという最低地上高を確保、そこにジムニーらしいアイコンを盛り込んだ。
FRレイアウトの部分でアプローチアングルにふれたが、ほかに、突起を乗り越えた時にボディ底面が接触しないことの指標となるランプブレークオーバーアングルも28°、リア部分が障害物に接触せずに脱出できることの指標となるデパーチャーアングルも51°と、ともにオフロード走行をするにあたって充分以上の余裕がある。ボディのデザインも、悪路を走破するために機能優先となっているのだ。
時代の先頭を走る、先進の機能
オフロードを走行する能力は、ブレーキLSDトラクションコントロールという新しい機能によって、鬼に金棒となった。この機能は、左右どちらかのタイヤが空転した時に作動。パートタイム式四輪駆動システムでもこの状態では、空転したタイヤと反対側のタイヤは駆動力が失われる。そこでこの装置が空転したタイヤに自動でブレーキをかけ、もう一方のタイヤに駆動力を与えるのだ。
新しいエンジンは、効率の向上もさることながら、圧縮比を高めたことやロングストローク化、そしてインテーク側に可変バルブタイミング機構を備えることで低回転域のトルクが厚くなった。トルキーになったことで、オフロードでの乗りやすさや、走破能力が向上している。
安全性能に関しては、良好な視界や乗員を守る強固なボディ構造といった基本はもちろん押さえつつ、最新の予防安全技術を搭載したことが注目に値する。カメラとレーザーレーダーによって危険が存在することや事故の可能性を察知すると、事故を回避するための仕組みが作動するのだ。
たとえば前方に人や車両の存在を確認して、衝突の恐れがあると判断するとドライバーに注意をうながし、それでも衝突が防げないと判断すると自動でブレーキが作動する。また、ブレーキとアクセルペダルを踏み間違えて壁などの障害物に衝突することや、走行中にふらふらと車線をまたいでしまう場面でも注意を喚起する。
広く受け入れられ、深く支持される
新型ジムニーの概要を知り、どんな方がお乗りになるかと考えていた時に浮かんだフレーズは、「広く、深く」というものだった。
これまでのジムニーはどちらかというとマニアックなファンに支持されてきたという歴史がある。けれども新型は、より幅広い層から受け入れられるだろうと予想したのだ。
同時に、マニアックなファンからは、さらに深く愛されるという予感もある。そこからの、「広く、深く」である。
具体的には、その良好な使い勝手がいままでより幅広い層から支持されるはずだ。
たとえば、荷室の開口部の幅は1030mmもあり、かさばる荷物も積み込みやすい。後席を倒せばそこには段差のないフラットなスペースが生まれるから、荷室が目一杯活用できる。
また、ラゲッジスペースの汚れを気にしなくて済む防汚タイプのフロアを採用したグレードがあることも、アウトドア派には嬉しいニュースだ。
シートアレンジについて付け加えれば、後席はリクライニングができる仕様を選ぶことができる。また、運転席と助手席を倒してフルフラットな状態にすれば車内で横になって体を休めることも可能だ。
小物入れの類も気が利いている。ドリンクホルダーは当然として、スマートフォンなども収納できるスペースがあるし、ドアのポケットや助手席側の乗降グリップ下のトレーなど、使いやすい場所に使いやすい収納スペースが用意されている。
こうした「おもてなしの心」が、ジムニーの新しいファンを呼び込むことは間違いないだろう。
同時に、前述したラダーフレームや四輪駆動システム、リジッドサスペンションといったジムニー伝統のメカニズムを進化させながら継承したことは、これまでのファンも納得するはず。
さまざまなデータにふれるにつれ、新型ジムニーが広く受け入れられ、深く支持されることは間違いないだろうという思いは強固になる。
文/サトータケシ