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APRC初戦、何処まで順位を上げるか
田嶋&イグニス スーパー1600!! |
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2002年5月6日 |
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雨も少なく好天の続くキャンベラは、例年より紅葉が遅れてまだ美しい緑が目に付く。そんな初秋の5月3日に02アジア・パシフィック・ラリー選手権の第1戦、ラリー・オブ・キャンベラがスタートした。ラリーは3日間3レグ制で、トータル走行距離は740kmと他のイベントに比べてかなり短い。しかしスピードを競うスペシャルステージ(SS)は19ヵ所266kmに及ぶ。これは小さなキャンベラの街を取り巻く植林地が舞台となっているからで、他のイベントよりかなり中身の濃いラリーとなっている。
ダウンタウンのスタート会場に集まったのは、地元オーストラリア、隣国ニュージーランド、日本、マレーシア、英国、ケニヤ、インドから参加の48台。その8番目に田嶋伸博/ジュリア・ラベット組スズキ・イグニス・スーパー1600が観衆に見送られてSS1を目指した。彼らの目標はもちろん好成績を残してアジパシの2輪駆動部門、スーパー1600部門の連覇にあるが、ジュニアWRC用のマシン開発というもうひとつ重要な仕事も忘れてはならない。なお2輪駆動車の参加は田嶋イグニス以外では地元のグループNイグニスやダイハツ・シャレード、プロトン・サトゥリア(マレーシア版三菱ミラージュ)など4台だけで、マシンやドライバーの内容からするとライバルにはなり得ない。こうなると田嶋イグニスは2リッターターボ&4WDマシン軍に混じって孤高の闘いをするしかない。だがこれは田嶋選手にとってはいつものこと、クラス優勝は当然、格上のマシンを何台食えるか、それを周囲も楽しみにしている。
田嶋選手、我慢のレグ1!!
SS1マインシャフトはジャンプするには余りにも急勾配過ぎる下り坂にスペクテイターが集まることで有名なステージ。だが田嶋イグニスは思わぬトラブルに見舞われていた。ナビゲーターがペースノートを読んでコース状況を伝えるための通話装置、インターコムが不通になってしまったのだ。これはラリー車によくあるトラブルだが、実戦を走るのが半年振りという田嶋にとっては、コースの先がどうなっているのか分からないのでは全開走行もままならない。SS3を終わってサービスに入るまでは、ナビのジュリアは手話でコーナーの曲がり具合などを伝えなければならなかった。見えるところはフルアクセルで攻めるが、コーナー手前では必要以上にブレーキングしなければならない。そんな無理も手伝ってブレーキも効かなくなって来た。
レグ1の6SSを終えて田嶋イグニスの成績は総合23位。2輪駆動部門ではブッチ切りのトップだが、いつもの田嶋選手はこんなものではない。4WDターボ勢のトップグループを追い回しているのだから。だがトラブルが起きたのでは仕方がない。「先月に南仏でテストしたスペックで走っているが、かなり走り易いし手応えも感じる。明日はもっとペースを上げてアタックする」と田嶋選手はニューマシンに満足げだった。
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IGNIS:LEG1 |
レグ2、やはりラリーは最高。
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IGNIS:LEG2 |
レグ2は高速かつラフなステージが6本用意されていた。田嶋イグニスはそんな路面のためにサスペンションセッティングを変えてスタート、様子を見て午後から全開アタックに入った。しかしここでもブレーキが緩んで効かなくなり、またしてもペースダウンを余儀なくされた。それでも上位陣がマシントラブルやコースアウトなどで次々とリタイアする中、着実に全SSをクリア、17位まで盛り返してゴールしてきた。「高速悪路用のセッティングは正解だったけれど、ブレーキが追い付かないことが分かった。いいテストになった」と田嶋選手。「それにしても、自分でドライブするのは楽しいね。最近はずっとマネージメントをやっていたからドライビングの楽しみを改めて感じるね。やっぱりラリーは最高だね!」
レグ3、残念ながらリタイヤ、だが得たものは大きい!
そして最終日、この日も朝から青空が広がり、気温も競技も熱い一日になることを予感させた。田嶋イグニスは豪快なエキゾーストノートを森の中に響き渡らせながらステージを攻め始めた。レーシングカーのような小気味良いスーパー1600マシンならではの甲高いエキゾーストノートは、はるか遠くで待つ観客たちにも「あ、モンスターが来る」「イグニスだ」と言わせるほどすでに有名になってしまった。ところが嬉しくない観客も集まって来る。ラリーステージの森の住人、カンガルーだ。田嶋イグニスもコースに飛び出してきたカンガルーに接触、右前フェンダーが欠けてしまった。だがそれはラッキーな方で、同じステージで6速全開で2頭のカンガルーと正面衝突した英国から参加のチームは、マシンが壊れてリタイアしてしまったのだから。
マシンセッティングも万全、田嶋選手の実戦感覚も完全に取り戻された。こうなるとあとはどのくらい順位が上がるかだ。この日2本目の26kmのSS14を終えて13位にジャンプ、SS15で12位、SS16で11位、そして2度目のロングSS17ではついにトップテンに入って来てしまった。
セッティングが決まって全開アタックを続けると、当然マシンの各部にフルロードでストレスが溜まってくる。それが今回はドライブシャフトだった。SS18スタート直後の川渡りに飛び込んだ瞬間、充分に強化したはずのドライブシャフトが折れてしまった。田嶋イグニスの2002年第1戦は残念ながらリタイアという結果に終わった。しかしこのラリーで得られたものは少なくない。
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IGNIS:LEG3 |
「今朝はアクロポリス・ラリー用のセッティングで出掛けたが、滑り易い路面には硬過ぎたため、サービスでもっと柔らかいセッティングに変更、マキシマムアタックした。やはりドライバーとしてはマキシマムアタックしている時が一番楽しい。でも残念ながらドライブシャフトが壊れてリタイア。テストのためには非常に良かったけど、ドライバーとしては残念。まあフィフティ・フィフティということかな」とガレージに引き上げた田嶋選手は語っていた。
ドライブシャフトが折れてしまったのは、対策がまだ不充分だったことであり、それが分かったのは実戦で全開アタック出来たからなのだ。これはWRカーなどを走らせている他のワークスチームでもよくあることで、何百kmもテストして全く問題なかったのに、実戦に出てみたらたちまち壊れてしまった、というのがラリーマシンの常識。テストと実戦は全く別物であるといっても過言ではない。だから田嶋選手がアジパシで走って壊す、という履歴が多ければ多いほど、イグニス・スーパー1600の完成度は高まって行くのだ。逆に言えば、マシンの熟成は実戦参加を通してしかなし得ない、ということだ。「次戦のニューカレドニアは、JWRCの第3戦アクロポリス・ラリーに似たコースがある。ここでまたマキシマムアタックをして、アクロポリス・ラリーのスズキチームにより良いマシンを提供したい」と田嶋の心はすでに南太平洋の楽園島に向けられている。もちろん今度は上位完走して、ドライバー田嶋伸博としての心も満足させなければいけない。

田嶋選手 |
「ともかく今年のイグニスは去年と比べると全く別物、まあ期待していてください」と田嶋選手の鼻息も幾分強く感じられた。
なお田嶋イグニスはリタイアしたものの、レグ1とレグ2をチャンピオンシップ対象チームトップでゴールしたためポイントを6点ゲットできた。
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尚、次のAPRCラウンドは、5月31日から6月2にかけて行われるニューカレドニアでのラリー、美しい南国のパラダイスだ。その楽園でJWRC直前のテストもかねた田嶋イグニスの闘いが注目される。
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