スズキコーポレートブログ
お金をかけずに、知恵を出す
スズキの工場からやってきた「からくり」に宿る、現場の遊び心と哲学
2026.06.18 │ スズキの人 / SDGs
約16m先まで歩いて戻していたマグネット。
手袋をしたままでは、1枚ずつ取り出しにくかったフロアペーパー。
2種類の治具を人手で仕分けていた作業。
ドラム缶の底に残った油を吸い上げるために2人を要していた作業。
スズキの製造現場では、こうした日々の困りごとに対し、現場の知恵と工夫で改善を重ねています。その象徴が「からくり」と呼ばれる改善装置です。
スズキ歴史館にて、「第30回からくり改善®くふう展2025」に出展した4作品を展示しました。高価な設備に頼らず、現場の工夫で課題を解決するこれらの装置には、「小・少・軽・短・美」の考え方と、仲間を思いやる姿勢が表れています。
前編では、4作品のうち2作品について、その背景にある工夫とこだわりを、制作者の声とともに紹介します。
歴史館に現れた手作りの装置たち
スズキ歴史館の2階生産ゾーン。クルマの製造工程を学べるこの場所に、手作り感あふれる装置が並んでいます。これらは、スズキの製造現場で実際に使われている「からくり」です。
製造現場における「からくり」とは、電気やモーターなどの新たな動力に極力頼らず、重力やテコの原理などを生かして動く改善装置のこと。高価なロボットや最新のITシステムに頼るのではなく、現場の困りごとを、現場にある“もの”と“知恵”で解決した装置だといえます。
クルマの製造工程を学ぶエリアに展示された手作りのからくり
では、なぜこれらのからくりは生まれたのでしょうか。そこには、スズキが大切にしている「小・少・軽・短・美」の考え方と、仲間を思いやる「By Your Side」の姿勢が表れていました。
仲間の「困った」を知恵で救うからくり
カミハメ波:フロアペーパーを、もっとスムーズに取り出せるように(湖西工場 第一完成課)
新車をお客様にお届けする前、運転席の足元を汚さないために敷くフロアペーパー。作業者は手袋をしたまま1枚ずつ引き抜きますが、感覚がつかみにくく、うまく取れないことがありました。その小さな引っかかりが、作業のリズムを乱していたのです。
「自分たちの工程を、自分たちの手で良くしたい」。そんな想いから動き出しました。
チーム員の古元 昭彦を中心にシフトの合間に集まり、仲間と知恵を出し合いながら改善に取り組みました。
カミハメ波チームの皆さん(左から古元 昭彦、新井 勇気、青野 滉平)
当初は、手でペーパーを押し出すスライド式のからくりを考案しましたが、工場長からは「手で押し出さないといけないのか。もう一歩だね」と声がかかりました。そこでチームは、隣の作業で使っているペダルの動力を応用し、ペダルを踏めばほぼ自動でペーパーが1枚ずつ押し出される仕組みへと進化させました。
ペダルを踏むと、輪ゴムの摩擦を利用してペーパーが1枚ずつ押し出される
その名は「カミハメ波」。某少年誌の必殺技を思わせる名前ですが、「紙(カミ)をはめて押し出す(波)」という機能も巧みに表しています。ストッパー上部には、小さな「S」のエンブレムも添えられていました。工程内の廃材を生かし、「あるもので何とかする」。その発想と細部へのこだわりは、スズキの「小・少・軽・短・美」の考え方に通じるものがあります。
このからくりは、「第30回からくり改善®くふう展2025」において「アイデア賞」を受賞し、さらに「令和8年度科学技術分野の文部科学大臣表彰」において、「創意工夫功労者賞」にも輝きました。
代表して賞を受け取った新井 勇気は、「みんなで考え、みんなで受け取った賞です」と話します。古元の熱量を、新井をはじめとするチームメンバーが受け止めて形にしていく。そのチームワークが、このからくりを生み出しました。
「第30回からくり改善®くふう展2025」で「アイデア賞」と
「令和8年度科学技術分野の文部科学大臣表彰」で「創意工夫功労者賞」を受賞
マグネットシューター:約16mの往復をなくした、ベテランたちの連携(湖西工場 プレス・車体第一課)
軽自動車の車幅検査で使うマグネット。これまでは作業者が取り外すたびに約16m先まで歩いて戻しに行く必要がありました。この負担をなくすため、リーダーの寺岡 伸年をはじめ、改善歴24年の渡邊 潤一、15年の榎島 康人というベテラン改善チームが立ち上がりました。
マグネットシューターチームの皆さん(左から渡邊 潤一、寺岡 伸年、榎島 康人)
完成したのは、マグネットを所定の位置に置くと上へ運ばれ、その後は下りスロープを自重で転がって作業者の手元へ戻る、大がかりなからくりです。特徴は、新たな動力を使っていないこと。車両を運ぶ既存のコンベアの動力をキャスターで拾い、その力をからくりに活用しています。新しい設備に頼るのではなく、今ある仕組みを生かして課題を解決しました。
既存のコンベアの動力をキャスターで拾い、新たな動力を使わずにマグネットを運ぶ
この複雑な機構は、3人の連携から生まれました。まず、寺岡が「こんな動きができたらいい」という構想を絵に描きました。そのイメージをもとに、渡邊と榎島が実際に手を動かして形にしていきました。寺岡は「マグネットを同じ向きで拾い上げるために、安い扉の丁番を使っています。動力を伝えるベルトも、工程で使っているケーブルなどを熱で溶かしてつなぎ合わせました」と話します。現場にあるものを工夫して使いながら、微調整を重ねて完成度を高めていきました。
一見複雑に見えるこの仕組みをどう設計したのかを尋ねると、渡邊は笑顔でこう答えました。
「緻密に計算して作ったわけじゃないんです。数学も幾何学も得意じゃないので(笑)
でも、現場で何度も動かし、微調整を繰り返せば作れるんです」
机上の理論だけではなく、現場で培った感覚と経験が、実際に使える装置を形にしました。
こうして生まれた「マグネットシューター」は、単に歩く距離を減らすだけでなく、現場にあるものを生かしながら改善するスズキらしい工夫が詰まった一台です。
こうした知恵は、ほかの現場でも生まれています。
後編では、さらに別の現場で生まれたからくりと、そこに込められた工夫や想いを紹介します。あわせて、こうした取り組みを支え広げていく事務局メンバーが語る、スズキのからくりの強みにも迫ります。
今回紹介した2作品と、後編で紹介する2作品のからくりの動きは、こちらの動画からご覧いただけます。
※「からくり改善」は、公益社団法人日本プラントメンテナンス協会の登録商標です。