新たな中期経営計画「By Your Side」のもと、中長期的な将来像を描きながら、世界を舞台にさらなる成長を目指すスズキ。
各分野で豊かな専門性を持つ4人の社外取締役に、ガバナンスや計画の実効性、スズキ流ROIC経営など、今後の成長に邁進する姿を語っていただきました。
私は社外取締役に就任して3年になりますが、取締役会は活発な意見が飛び交う場所で、本当に風通しがいいです。私たち社外取締役はスズキ社内の様々な会議を傍聴できるだけでなく資料も見ることができます。これにより、どんな議論を経て取締役会に上がってきたのかを知ったうえで会議に臨むことができます。
また、コンプライアンスやリスク管理の面でも変化を感じています。コーポレートガバナンス委員会への報告も以前より活発になっており、問題を隠さず共有できる風土が着実に根付いてきました。透明性を高めながら、より良い会社にしていこうという意識を現場まで含めて感じています。
コーポレートガバナンス・コードが改訂されましたが、社外取締役がより経営に積極的に参加してほしいという社会からのメッセージですね。スズキはすでに先進的な形で実施していますが、我々4人の責任はより重たくなっていると思います。
私は2020年に社外取締役に就任し、7年目になります。この間にはコロナの流行や、半導体不足で生産調整を余儀なくされた時期もありました。そのままでいけば業績が悪化しているはずなのですが、この間、スズキはずっと業績を伸ばしているのです。最初は私もその理由がよくわからず、スズキの復元力と勝手に呼んでいましたが、スズキの力の根源が社是と3つの行動理念にあることがだんだんわかってきました。
スズキはこれまでの現場・現物・現実に原理・原則を加え、3現・2原として行動理念をアップデートしました。当たり前のように聞こえますが、取締役会ではかなり議論になりました。私もその意味が分からず、なぜ今「原理・原則」を付け加えるのかと、経営陣に質問しました。すると「今、スズキはどんどんデータを集積し、分析している。そうすると、今まで当たり前だと思っていたことが違ってきた」というのです。つまり本当の「原理・原則」を見つける努力をしていく。いわゆるデータドリブンの会社に変わろうとしていて、その考え方の表れとして行動理念が3現・2原に変わったと理解しています。
スズキはコロナや地政学的リスクがあっても、ぶれない強さがありますが、技術的な面でのアドバンテージも大きいでしょう。小型車というのは簡単に作れるように錯覚されがちですが、安全基準などは普通車と同様のレベルが求められます。以前、技術者に話を聞いたことがありますが、衝突安全性の高度化など、隠れたところで大変な努力をされている。長い年月をかけて培ってきた技術や知見に支えられているのだろうなと考えています。
私自身、就任してまだ間もない立場ですが、特に印象的なのは「聞く力」の強さです。社外取締役が発言しやすいだけでなく、いただいた意見に対して必ずフォローアップが行われます。単に意見を受け止めるだけでなく、改善につなげようとする姿勢はスズキの大きな特徴だと思います。
今回、3現主義に2原が加わったのも、原理原則を見極めて課題を特定し、ルールも含めて、その課題に対してきちんとアップデートしようという考え方の表れであると理解しています。激変する環境の中で、貪欲に社外の意見を取り入れようとする気持ちが非常に強いですし、社外取締役だけでなく、現場の意見もよくお聞きになっています。
小型車は1台あたりの売上が小さいです。小型車は台数が売れるという利点がありますが、よほど効率よく作って販売しないと、利益が出ない。実際の数字を見ると、スズキは非常によい業績を積み上げていますから、「3現・2原」、「小・少・軽・短・美」が組織に染みついていて、効率のよい経営に繋がっているのでしょう。
しかし今後も成長を続けるために、ますます生産性と開発効率が厳しく問われます。そこを支えるのが「個の成長」でしょう。中期経営計画「By Your Side」(以下、現中計)では「個の成長」をうたっています。その際、AIを取り入れるというのが、スズキらしい1つの方向性であると見ています。
スズキは2019年というかなり早いうちからAIを導入していて、汎用的な仕事はすでに効率化されています。設計や塗装などの現場でもAI活用が進んでいますね。
その結果、空いた時間によりクリエイティブなことを考えることが可能になり、さらなる効率化を実現できる。そういう流れの中で「個の成長」が見えてくるはずです。
私は陸上という世界で戦ってきましたが、スポーツ界でもあらゆるデータが数値化され、私自身も現役時代、活用することが多かったです。しかし、最後の決断はデータに振り回されず、自分の体の感覚や指導者との対話を非常に大切にしてきました。
これは経営でも同じだと思います。AIは心強いパートナーではありますが、やはり最終的な判断は、人が現場で行うことが重要だと思います。データと現場、人の役割が一つになって「個の成長」に繋がると思います。
「個の成長」を目指す場合、現在のスズキは日本人だけを対象に考えていたら不十分だと思います。
なぜなら、スズキはインドを中心として、世界戦略を拡大するという将来像を描いています。他方で競争は激化し、怒濤の勢いで海外資本も参入しています。したがって「個の成長」はインドだけでなく、その他の地域も一体となって戦略を考えることがもっとも重要だと考えます。
また国内での「個の成長」をどうやって可視化するのかという課題があります。これまでは人事改革の成果も含めて、その効果が見えにくい面もありました。しかし最近は「稼ぐ力」という形で可視化する指標が示され始めています。例えば新車の収益や車種構成、原価低減などを積み上げて稼ぐ力を評価していく考え方です。
さらにスズキの場合は、投資と収益を視える化する独自のROICにも取り組んでいます。これは現中計の実践の中で大きな役割を果たすのではないかと期待しています。
スズキ流ROIC経営の考え方で特徴的なのは、会社全体の数字を分解し、部門や案件単位、さらには個人レベルまで目標を落とし込もうとしている点です。数字を管理するためではなく、一人ひとりが自分の役割と成果を理解しながら成長するための仕組みとして定着していくことを期待しています。
「個の成長」については取締役会でも議題になりますし、私たち社外取締役も強く意識しています。稼ぐ力の強化はもちろん、コンプライアンスやリスクへの対応にも効果があるものだと考えます。環境変化が激しい昨今、次々と生じる現象に対して課題感を持ち、それをみんなで共有しながら解決に向かっていく。それが「個の成長」を踏まえたチームスズキの真骨頂でしょう。課題を1つ申し上げるとすると「個の成長」には一定の時間が必要です。そこは私としてもしっかりと見ていきたいと思っています。
現中計は6年間で4兆円の投資を打ち出しています。まず設備投資が2兆円。このうち1兆2,000億円がインドのために使われます。2030年までに400万台の生産体制を整えるという目標設定に対する投資は、競争優位性を維持するためにも不可欠であると考えています。
二番目に研究開発費が2兆円。この中で力点を置いているエネルギー極少化技術に1兆3,500億円を入れる。10年先を見据えて投資をします。これがまさにスズキの将来の生命線ですから、重要な投資だと捉えています。
EVについては、市場のトレンドでは多少トーンダウンしていますが、スズキはぶれずに投資をしています。その瞬間の好不況や技術トレンドで投資判断を左右させると、経営を踏み外してしまいます。自分たちの強み、マーケットでの立ち位置を踏まえ、5年10年のスパンでぶれずに投資を続けることの重要性を、スズキのあり方を見ながら実感しています。その中で優先させる投資、勝てる開発はなにかということを特に厳しく見ていきたいです。
株主の立場から見れば、適切なリスク管理のもとで、将来の成長に向けた投資が着実に行われているか、そしてその投資が資本効率の向上や企業価値の創出につながっているかが重要な関心事です。私たちもその視点で経営をレビューしています。スズキは営業キャッシュフローの中で株主還元を行い、成長投資も行うというキャピタルアロケーションが規律になっています。投資判断においては投資効率を徹底的に意識し、稼ぐ力を向上しながら、社会や顧客のニーズに応え、次世代のインフラモビリティへの投資が適切に行われているかを監督しています。持続的な成長と社会価値の創出を両立させることが、私たちの重要な責任だと考えています。
自動車のビジネスと直接の関係はないのですが、スズキはNext Bharat Ventures(以下NBV)というインドの子会社を通じて、インドのスタートアップ企業に出資をしています。インド社会は日本のように成熟していません。だからこそイノベーションが生まれる社会なのですね。スズキは1983年からインドに進出し、インドを一番よく知っている日系企業の筆頭ですから、投資を通してインドとともに成長し、さらにはグローバルサウスの中心国であるインドからアフリカ等にもつなげる戦略なのです。
やはりスズキにとって、インドは生命線であり、この投資には大きな意味があると思います。人口14億人の中で、いまだ10億人が車を持っていない。スズキはその方々との接点をつくっていく必要があります。NBVと共に地域の社会課題解決に取り組むベンチャー企業などを支援していくことで、インドに住む方々の生活水準を上げ、車に手が届く暮らしを実現します。
これらの活動を通じて、地域の人たちに必要とされる企業に育っていく。それは非常にスズキらしい戦略だと感じますし、長い目で見ると、スズキそのものが地域の皆さんの生活を支える重要な社会基盤になっていくと考えています。
現中計では生活に密着したインフラモビリティの実現に向けた挑戦をうたっています。それはとてもスズキらしく、例えば日本国内の地方において、スズキの車は1人に1台。まさに生活の足として親しまれています。
一方で、地方ではガソリンスタンドの減少が大きな社会課題になっています。そうした中で、自宅で充電できるEVは単なる新商品ではなく、人々の移動を支えるインフラになり得ます。今後、スズキは軽乗用EVを投入するとともに、全国の販売ネットワークを活用した充電環境の整備も進めています。これは生活に密着したインフラモビリティを象徴する取り組みだと思います。これはインドでも同様です。同国にはスズキのサービス拠点が多くありますから、EV化が進んだ際には大きな強みになるでしょう。
インフラモビリティという言葉を聞くと、大型トラックや鉄道、飛行機や船舶輸送など、重厚長大な物流の世界が頭に浮かびます。スズキが大切にしている「小・少・軽・短・美」とはアンマッチで、当初、違和感を覚えました。
しかしスズキが米国のスタートアップ企業であるGlydways社と協業し、公共交通サービスの新たな形を開発すべく投資を始めたとき、これがスズキのインフラモビリティなのだと理解しました。軽自動車サイズのEV車を専用レーンで自動走行させるというユニークな形ですから小さな投資で作れますし、普及に応じて増やせばいい。都市内の交通にとって重要なモビリティになることが期待されます。
スズキのインフラモビリティへの挑戦は、お客様の立場に立って、地域と十分な意思疎通をするところから始まります。
スズキは全国の販売店様を大切にしていて、年度始めには決起集会が行われます。連携を強化し、地域の人たちとの繋がりが深まることで、新車を買う時だけでなく、使っている限り、サポートがずっと続くという長い視点での関わりが強固になるのです。
陸上競技にたとえると、1人だけが強くても駅伝は優勝できません。私自身、駅伝を走っていたときは、自分が走る区間だけでなく、全区間を試走することを重視していました。そうすることで、誰がどんな思いで走っているのかを理解することができ、自分に与えられた役割や、たすきの重さ、汗や心の熱さも含めて、すべての人たちの思いを繋げていく。それが勝負に影響します。
一人ひとりがいかにチームに繋がるのか。インフラモビリティへの挑戦、地域に根ざした活動の発展などを目指し、スズキというチーム全体がどう進化するのかが問われると思います。
地域に対する活動として、NBVへの投資は様々な議論をしました。ROICを計算すると現状はマイナスでしょう。それでも敢えてやるという決断をしました。
なぜなら、スズキに対して良いイメージを持ってもらい、インドの人々にスズキの車に乗りたいと思ってもらうことが重要だからです。ただ、こうした価値は数字で測り切れません。
社外取締役が数字だけを見て判断するようになると、私たち自身もAIに置き換えられてしまいます。だからこそ、将来のお客様との関係づくりや地域社会の課題解決につながるのかという視点を大切にしています。それがスズキらしいインフラモビリティの考え方であり、これからも規律を持って稼ぐ力に資する投資の議論を重ねていきます。
1982年という早い段階で、スズキは大きな夢を持ってインドに飛び出して行かれました。その挑戦のスピリットとグローバル視点を忘れてほしくないと思います。同時に、「小・少・軽・短・美」を大切にしながら地域に根付くスズキらしさも守ってほしい。その挑戦する姿勢と地域に寄り添う姿勢の両方を強みにしながら、インフラモビリティを広げていく会社になってほしいです。
私も高橋さんと同様、多くの人々の課題を解決するようなインフラモビリティを提供し続ける会社であってほしいと願っています。
また私自身はファイナンスというバックグラウンドがありますので、持続的な企業価値の向上に配慮しながら、いかにリスクをマネージしていくのか、どうやって投資からリターンを生みだしていくのか。議論を重ねながら、チームスズキの一員として、ありたい姿に近付きたいと思っています。
スズキは現中計で8兆円の売上と8,000億円の利益を目指すと宣言していますが、投資家の期待は10兆円の売上、1兆円の利益という形で高まっていくでしょう。10兆円となると、500万台近くの車を作る必要がある計算になり、恐らく今までの延長では済みません。「個の成長」をさらに視える化し、その取り組みが効率向上やスピード向上、収益拡大にどのようにつながっているのかを分かりやすく示していくことが重要です。スズキには優れた取り組みが数多くありますので、それらを企業価値としてしっかり発信できれば、投資家の理解が深まり、継続的な投資につながる。その好循環がスズキの成長ドライバーになると思います。
現在、スズキで働く人はグループ全体で7万人を超えています。そのうち半数以上は海外子会社の社員です。スズキの強みは現場にあり、海外子会社の社員はそれぞれの国の現場にいます。インドでは成功していますが、今後はアフリカ、中東、中南米などの有望市場でも事業を拡大していかなければなりません。
そのとき鍵になるのは、やはり現場です。世界中の現場で働く仲間と考え方を共有していかなければなりません。例えば私たちは「小・少・軽・短・美」はよいものだと思っていますが、世界には異なる価値観もあります。だからこそ、なぜスズキがそうした考え方を大切にしているのかを理解し、納得してもらわなければ成功は難しい。ぜひ社是と行動理念をグループ全社員に浸透させ、さらなる成長につなげてほしいと思っています。