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サステナビリティ トップメッセージ

“生活に密着したインフラ企業”を目指し、挑戦の歩みを進め、個人も会社も成長していく

代表取締役社長
鈴木 俊宏

スズキの目指す「生活に密着したインフラ企業」

スズキはもともと、創業者の鈴木道雄が「母の仕事を楽にしたい」という思いから織機を作り、それを周辺の人々にも使ってもらうところから祖業をスタートさせ、その後、二輪、四輪、マリンと事業を拡げてきました。
現在、自動車業界は100年に一度の大変革期を迎えており、地球温暖化への対策など、環境に配慮した製品づくりが求められています。日本では軽自動車、グローバルでもコンパクトカーを得意としているスズキですが、その念頭には「小・少・軽・短・美」に象徴される、必要とされるものづくりを最小限で行うという考え方があります。これはカーボンニュートラル社会が求める環境負荷を抑える製品づくりとの親和性が非常に高いと考えています。今後はそこに電動化したモビリティが中心的な役割を果たしていくと見込んでいます。
私たちはこれまで、社会インフラである交通手段、つまり生活を支える移動手段を提供してきたと自負しています。これからも、生活を支える基盤として、車を含めた形で社会インフラが形成されていくと考えていますが、今までのガソリン車の使われ方とは異なり、電動化によって車そのものが小規模ながらも社会インフラの一部になっていくと思います。そうした変化を捉えながら、得意とする小型モビリティを極めていくことで、生活に密着したインフラを提供するのがスズキの役割だと考えています。
また、牛が3億頭いると言われているインドでは、放置すれば温暖化の原因となる牛糞をエネルギーとして活用するバイオガス事業を推進しています。牛糞からバイオガス燃料を精製し、その残渣から有機肥料を生産することで、農村部の所得水準を上げ、インドの発展に貢献することを目的としています。社内で最近よく話し合っているのは、インドの全人口14億人のうち、私たちがお客様として接している車を買える所得層の人たちは約4億人で、農業従事者を中心としたまだ車やバイクを使えない所得層の人たち約10億人の人々のことを、どうやって把握し、理解し、どう関わっていくかということです。多様な民族が集まる広大な国土ですが、隅々まで現地に入り込み、人々の暮らしをよく観察し、もっと深く考えることが重要です。日々の困りごとを解決し、一人ひとりの生活水準を上げるために、スズキとして貢献できることを探っています。それには、「現場、現物、現実」にこそ答えがあると考えています。約100年前に当社がスタートアップ企業として起業した当時から、お客様の立場になって困りごとの解決を追求してきたからこそ、生き残り、成長することができたのです。それを忘れてはなりません。

人的資本の増強(人事制度改革、多様性)

競争力強化のため、会社として変わるために、コーポレートガバナンスコードに基づいた実質的な会社の強化として、構造改革・リスク極小化・将来に向けた種まきの3本柱で取り組んできました。そして、2023年1月には“2030年度に向けた成長戦略”を発表しました。並行して2022年からは春闘のやり方を変え、浜松という地域性も踏まえ当社だけ賃金を上げることが適切なのかという悩みもありましたが、約30年ぶりに人事制度改革に取り組みました。
人財育成については、これまではOJTという都合の良い言葉を借りて現場任せになっていましたが、座学やウェブ研修などのOff-JTとのバランスが取れた体系的な学びの機会をつくります。個人の能力をどう伸ばしていくのか、その能力をどのように技術や商品の開発につなげ、どうやってお客様に価値ある製品をお届けするか。それが「稼ぐ力」の源泉となり、さらなる賃金アップにもつながっていきます。社員一人ひとりにもその意識をしっかり持ってもらいます。会社は人を大切にし、人の力をどう活かしたら企業の成長につながるかを考えます。

社内における人事異動は、転職と同じように「新たな職場・業務」に出会える機会だと思います。しかし、「あの部門はどのような業務をしているのか?」「この部門の業務はどのようなスキルが必要なのか?」ということが組織として明確になっておらず、また個人が持つ技術や技量、適性も社内で明確になっていなかったため、人財交流が活発化していませんでした。「こういう人財を求めている」ということを社内でもっと明確にし、それに対して手を挙げてくれる人を発見し、適切な業務に就いてもらうことができれば、やりがいを持って仕事をすることで、企業は活性化していく。これを人事制度の中で実現したいと考えています。
人を見る目、人を評価する能力は、マネジメントスキルとして非常に重要です。評価の際には、行動を見ることが一つのポイントです。一人ひとりがお客様を意識して行動しているかどうか、上司のことばかり意識して仕事をしているのか、その違いが結果に大きく影響します。お客様を意識していれば、社内で意見が食い違ったとしても、建設的な議論ができますし、不正は起こりにくく、問題も生じにくいと思います。
人事制度は、一度で完璧なものを作ることはできませんから、地道にいろいろな人の意見を聞き、改善を重ね、みんなで制度を育てていきたいと思っています。お客様がいなければ、私たちは生きていけません。そのため、誰が主役であるかを常に意識し、お客様が何を求めているのかを考え、それに応えていくことが重要です。
多様性については、正直、まだまだ課題があります。スズキの女性管理職比率は他社に比べても低く、これまで女性が活躍しやすい環境を整えることができていませんでした。出産や育児などのライフイベントも考慮しつつ、将来的には管理職の昇進時と採用時の男女比率が同じ水準になることを目指して取り組んでいます。また、日本人とインド人が密にコミュニケーションを取り、互いに補い合うことで、多様性を高めながら一体化を推進する活動をしています。地域社会にも協力してもらいながら、日本でもインドでも同じような生活ができる環境を整えていきます。そして、将来的にはインド人がスズキ本社の役員になることも視野に入れています。100年以上の歴史の中で培われた社是や行動理念は、私たちの行動に深く根付いていますが、これらを海外も含めたグループ会社の社員にもしっかり理解してもらうことで、多様な人財が同じ目標に向かって成長し続けていくことが大切だと考えています。

成長戦略達成のための技術戦略・新中期経営計画

インド進出の40年間は成長と失敗の表裏一体の歴史でした。成長戦略の達成目標年である2030年に年間400万台の生産能力を目指し、年間25万台の生産能力の工場を毎年建設し稼働させていく計画は、非常に難しい挑戦です。設備や工場は資金があれば購入できますが、人財育成には時間がかかります。そのため、優秀な人財を集めスズキの文化や考え方をいかに理解してもらうかが鍵となります。また、現有の土地にそのまま工場だけ増築して拡大すればいいという訳ではなく、拡大に伴う物流の問題や周辺地域の環境整備、緑化率の遵守など様々な課題を解決しなければなりません。400万台をターニングポイントと捉え、最適な組織や設備、仕事のやり方に見直していく必要があります。インドの基盤を固めつつ、今後はアフリカにも同様のアプローチを探っていきます。
7月に技術戦略の説明会を行いました。これまでの技術開発は、直感的に進めてきた部分もありましたが、軽くて短く、美しいという製品へのこだわりと、小さい車こそ環境への負担が小さいという考え方を基に、製造からリサイクルまでCO2排出量を抑える「エネルギーを極小化させる技術」を改めてスズキの技術戦略の核心に据えました。資源を有効に使い、地域に沿ったカーボンニュートラルを進めていくことが、我々が取るべき方針だと考えています。生活に密着したモビリティにとって、価格や使い勝手は重要なため、実用的で価値のある技術開発を心がけています。だからこそ、「これは使える」「これを待っていた」と言われるような、時代に合わせたリーズナブルかつ生活に密着した技術を追求することが、私たちの進むべき道だと思っています。
新中期経営計画については、技術戦略はじめ、あらゆる事業分野の戦略について、本部長が毎週ランチタイムに集まって、腹落ちするまで議論を重ねて策定を進めています。これまでの中期経営計画の策定では無かった濃密な議論を続けています。見栄えのいい計画のための計画を作るのではなく、技術、生産、営業など商品づくりに関わるチームスズキ全員の想いやこだわり、商品の魅力をお客様に確実にお届けできる実行性の高いものとし、成長戦略を確実に実現させていきます。

ガバナンス・コンプライアンスの強化

今年の6月に型式指定申請に関する不正行為について公表し、関係の皆様にはご心配・ご迷惑をおかけしました。過去に燃費不正や完成検査不正の問題を発生させてしまった以降は、不正行為を未然に防ぎ、不正が見つかった際には直ちに情報を共有して正す取り組みを行っています。役職の上下に関係なく、自由に意見が言える風通しの良い企業風土づくりの一環として、年に一度、私が全ての職場を訪問し、社員と直接対話しています。直属の上司には言いにくかったことも言ってもらうことで、会社全体のコミュニケーション改善に取り組んでいます。また、危機意識を持ち続け、二度と同じ過ちを犯さないようにするため、「リメンバー5.18活動」を毎年実施しています。日々の業務の中でどのような行動が不正に当たるのかを全員参加で振り返ります。いかに問題が小さいうちに解決するかが大切です。理由が何であれ、不正は絶対に許されないという姿勢を徹底しています。

もし開発日程が遅れた場合には、無理に日程を守るのではなく、できることとできないことを明確にし、日程変更も含めて再検討します。不正につながる問題点を議論し、同じことを発生させないことが大切です。
また、仕事量の増加に対しては、不要な仕事はやめ、デジタル技術なども活用しながら効率化や生産性の向上に取り組むことで、法令遵守など真に必要な仕事ができる工数を確保するようにしています。さらに、スズキのモノづくりの方向性や特性、商品価値をしっかりお客様にお伝えすることで、製品の機種や仕様を必要以上に増やさなくても売れるようにする努力も大切です。無駄を省きながら、企業としての稼ぐ力を高めていき、社員一人ひとりがやりがいを持って働けるような環境を作ることも、ガバナンス・コンプライアンスの強化として重要だと考えます。

社長としての挑戦

会社は人の集まりであるため、社員が活き活きとワクワクしながら働きながら、稼げる会社を目指していきたいと思っています。そのためには、社是と行動理念の徹底が必要です。中でも、社是における「お客様の立場になって」という理念に集約されている、生活に密着した価値ある製品を提供することだと思います。そのためには、「小・少・軽・短・美」や「現場・現物・現実」を重視し、「中小企業型経営」の機動性を活かして、お客様のニーズと現場の状況をしっかりと把握し、製品づくりに活かしていくことです。そして、スタートアップの精神を忘れずに、失敗を恐れず、失敗から学びながら、新しいことに挑戦し続けることが個人と会社の成長に繋がっていきます。
風通しの良い企業風土の構築に努め、社員の意見を聞きながら、一人ひとりがやりがいを持って働けるような会社を作り上げていきたいと思います。

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