2024年7月、スズキ株式会社の女性社員を対象にキャリア形成をテーマとした座談会を開催しました。
事前に実施した「両立支援‧女性活躍(キャリア形成支援)のアンケート」で、“管理職へのキャリアアップに興味がある”と回答した社員に集まっていただき、当日は女性管理職によるパネルディスカッション形式で行い、ゲストとして高橋尚子取締役も参加しました。
高橋 昨年の6月にスズキの社外取締役に就任してから1年以上が経過しました。就任以来ずっと女性社員の皆さんの声が聴きたいと考えていたので、「座談会を開催したい」という企画が実現でき、非常に嬉しく思います。スポーツでもダイバーシティや女性推進などを少し取り組ませていただいたこともあり、社会や車業界の女性を取り巻く環境や活躍を学び、少しでも尽力できればと考えていました。スズキで皆さんがどのような仕事をし、どのような事にやりがいを感じ、どのような悩みを抱えているのかを知ることで、皆さん同士のコミュニケーションやネットワークを広げ相談事や悩みを共有できる関係や機会を作っていけるように全力で応援していきます。
高橋 尚子
社外取締役(在任2年目)
当初はスズキの女性社員の比率が13%という現状には驚きましたが、女性の比率が少ないのはスズキに限ったことではなく、自動車産業全体で見ると女性社員比率が10%代の会社が多いのが実情です。EV化の進展と共に、女性が活躍できる場は増えていくと思います。スズキの女性社員が主体となり、魅力を社外に発信していくことで、業界のイメージを変えることができると信じています。
スズキの女性管理職の人数は25名、比率は1.8%(2024年3月末時点)ですが、2030年までに5%に引き上げることを新たな目標とし、将来的にはそれを女性社員比率(2024年3月末時点で12.8%)まで引き上げるという明確な意思を有価証券報告書に記載しています。この目標達成に向けて人事部DE&Iチームとの議論を経て、全女性社員を対象にアンケートを実施し、73.4%と私が思うより高い回答率で回答を得ました。アンケート結果からは、ロールモデルの不在や相談相手の不足が明らかになりました。その結果をもとに、今日の座談会は、キャリアアップのためにロールモデルを見つけ、姿勢、視点、スキルを学ぶ機会として位置付けました。管理職になった人の経験を聞き、それをきっかけにしてほしいと思います。加えて、女性社員が働きやすい環境を整え、定着率を向上させることも私たちの目標です。
オリンピックはテレビの中だけの遠い世界の出来事と感じている方や子供が多いと思います。しかし、スポーツ教室などで実際に一緒に体を動かしたりふれあったりすることで、オリンピックは手の届かないものではなく、自分も頑張り続ければ可能性があるのではと目が輝いたり、身近に感じていただくこともあります。同じように、今はまだ管理職になることを“遠い世界の話、難しいもの”と思っていても、話を聞き身近に感じることで考えに変化があるかもしれません。今日が新しい一歩、スタートアップの場になればと思っています。
大橋 私はもともと管理職になることを目的や目標としていませんでした。しかし、労働組合の役員を経験したことで、女性が自分の言葉で困っていることを発信しなければ、状況は変わらないと感じたことが大きな転機となりました。例えば、ある有事の際に、会社や組合上層部は母親である女性社員が“出社できる仕組み”を検討していましたが、母親には子供のために休んで対応しなければならないこともあり、当事者である女性社員たちは“仕事を休める環境”を求めていました。こうした男性だけでは見落としがちな視点もあることに気づき、女性が働きやすい会社から女性が活躍できる会社というステージに移行するためには、女性自身が考え、発信することが必要だと思い、その実現のため管理職になりました。
大橋 美穂
部長
四輪電動車技術本部
四輪電3設計支援部
入社以降、CAD、プロセス管理、教育などの設計支援の分野を中心に経験。
08年より係長、16年より管理職、24年より現職。
江間 私はいわゆる一般職(定型・定常業務を主として担当する職系)として入社してから、ずっと海外営業の管理部門で働いており、部長や課長と様々な調整をしながら、部門内をまとめる仕事をしてきました。当時の制度では、昇進の機会が限られていた一般職であることにモヤモヤを感じながらも、仕事は一生懸命に取り組んでいました。ある時、当時の部長から「管理職試験を受けてみないか?」と声をかけてもらい、子供も大学生になっていたこともあり、挑戦してみました。
江間 公子
課長
グローバル営業統括部
海外事業業務部総括課
入社以降、海外営業で生産・販売計画等とりまとめや業務改善を経験。
12年より係長、15年より管理職。16年より現職。
墨 入社時には管理職になるとは思っていませんでした。技術部門という男性社員が多い職場環境の中で、技術の専門職としての管理職の区分ができた時に「管理職になりたい!」という想いが湧いてきました。当時の上司から「女性技術者のキャリアアップのロールモデルになってみないか」と言われ、ステップアップしたい思いもありました。ちょうど子供が受験で頑張っている時期とも重なり、「よし、お母さんも頑張ろう」と思って管理職試験を受けました。
墨 智佳子
主幹
技術戦略本部
環境・材料・生産技術開発部
基礎・先行技術開発課
入社以降、プラスチック材料の専門家として、プラスチック材料の開発・評価技術開発を経験。
02年より係長、15年より管理職。
西村 周りの男性社員が次々と昇進していく中で、「あの人が昇進するなら、自分にもできるのではないか?」と思ったことがきっかけです(笑)。また、占いが好きなのですが、よく「人の上に立つ」、「お金に困らない」という結果が出ていたこともあり、自分の力でそれを実現できるかもしれないと思って挑戦しました。
西村 由利子
主幹
調達戦略本部
サプライチェーン推進部
CN推進課
入社以降、国内営業、人材開発、調達戦略と多方面の業務を経験。
17年より係長、24年より管理職。
大橋 2回出産していますが、最初の出産の際、「この仕事は自分にしかできない」と思い込んでいて、ほとんど引継ぎをせずに育児休職に入ったところ、職場から何度も電話がかかってきて、ご迷惑をおかけしました。この反省を活かし、2回目の出産時にはしっかりと引継ぎを行ったところ、自分も安心して休めましたし、復職時には新たな業務に恵まれました。この経験から、一人で仕事を抱え込まず、チームで仕事をすることの重要性を学びました。子育てをしていると、突発的な休みが発生するのは当然であり、いつ休みが発生するかわからない状況を理解してもらい、複数人で仕事をする職場体制を整えることが大切です。
江間 私が子供を出産した当時は、育児休職を取る人はほぼいない、保育園も充実していない、そんな時代でした。産後の復帰については悩みましたが、その時ちょうど、夫の母が退職したばかりで、「仕事は辞めない方がいい」という助言とともに、子供の面倒を見てくれることになったため、産後8週間で職場復帰しました。夫の母がいなければここまで長く働くことはできなかったので、とても感謝しています。それでも、土日は子供と一緒に過ごし、平日でも学校の行事は絶対に参加することを心がけてきました。
墨 平日は、朝4時に起きて家事を全て済ませ、始発電車で会社に向かう朝型生活に切り替えました。通勤電車の行きで会社人間に、帰りでお母さんに切り替えるように心がけていました。夫から「会社にはあなたの代わりはいるけど、お母さんはあなたしかいない」と言われたことが自分にとっては印象的であり、会社で同じチームになったメンバーにも同じことを伝え、メイン担当・サブ担当として相互にフォローできる体制を整えました。
西村 管理職になって良かった点は二つあります。一つは時間管理される立場から脱却し、自分の裁量で柔軟に働けるようになったことです。もう一つは給与面です。これまでと比較すると「こんなにもらっていいの?」と思うくらいで、より一層身を引き締めて働かなければと感じています。
大橋 責任は重くなりますが、それに見合った権限も与えられるので、自分が目指す組織作りを実現できる点がやりがいです。そして今は、何よりも部下の成長が嬉しいです。みんなが自ら考え、行動し、提案してくれると、自分が部下に少しでも良い影響を与えられたかなと感じられて、上司として自分が褒められるよりも嬉しいです(笑)。
江間 課長は正直大変です。担当者は自分の業務が対象範囲ですが、課長は、課の全ての業務に責任を持つ必要があります。全ての業務を把握すること自体が難しい中で、様々な業務の判断をし、進めていくために、他部門との調整や問題解決が求められました。課長として最前線に立たねばならず難しい場面もありましたが、困ったときは部長や役員、本部長に相談して進めてきました。日頃から、部下にも、わからないことがあれば、わかる人に聞いて正確に業務を行うように伝えています。社内の人脈は大切で、様々な部署の人とつながりを持ち、何かあったら助けてもらい、頼りながらここまで乗り越えてきました。
大橋 24年4月からの新人事制度により、ポストと非ポストが分かれ、行き来ができることが明確になったことで、組織運営をしたい時はポスト、専門性を高めたいという時期は非ポストにという個人の希望を踏まえた選択肢を持てるようになったことは素晴らしいと思います。私はこれまでポストについてきましたが、将来的に専門性を高めたいと思った場合は、非ポストも選択肢として考えていきたいと思っています。
墨 以前、上司に「墨さん、男性と同じ体力がありますか?同じことができますか?」と聞かれたことがあり、「できません」と答えました。その時、上司から「墨さんはタイプも違うし、働き方も違うので、同じことを目指しても意味がないので、それをやる必要はありません。墨さんなりの管理職を目指してみてはどうですか?」と助言をもらいました。話を聞いてもらうだけでスッキリすることもあるので、相談された際には嫌な顔はせず話を聞くことを心がけて、気軽に話をしてもらえる雰囲気づくりを心がけています。また、管理職として、専門分野以外の技術分野の部下もいますので、部下からも技術的なところを教えてもらいながら、仕事を進めていくなど、自分らしさを追求しています。
西村 職場によって男女比率に差があると思いますが、私がこれまで働いてきた職場は割と女性が一人だけのことが多く、逆に自由に発言できる場面が多かったです(笑)。男性と同じように立ち振る舞う必要もなく、男性だと言いにくいであろうことも自由に発言してきました。取引先や工場への訪問時に男性社会で大変な点もありましたが、気にせずに取り組んできました。女性だけでなく男性も、そして性別以外にも皆さんが様々な事情を抱えて大変な部分はあると思うので、周囲のメンバーとしっかりコミュニケーションをとって、困っていることを相談できる環境を作っていくこと、皆でうまくやっていける環境を作っていくことが大切だと考えています。
大橋 アンケートで、管理職になるにあたって家庭や子育てとの両立に不安を感じている声が多くありましたが、結婚や出産がキャリアの中断になるとは思いません。育休から戻ってきた部下を見ると、その生産性は非常に高いです。家事や育児は、料理しながら洗濯したり、子供をあやしたり、マルチタスクです。クオリティを落とさずにいかに時短で料理するか、なんてことは、まさに業務改善そのものです。ですので、子育てや家事の経験は仕事に絶対に活きてきます。家事や育児に時間をしっかりと取り、その後職場に戻ってくれば良いと思います。人生で得た経験を活かし、長く働き続けることをキャリアビジョンとして考えてもらいたいです。
江間 私の周りの時短勤務の女性社員でも通常勤務の社員とくらべても遜色なく、限られた時間の中で高い生産性を発揮し、成果を出して、係長に昇進した人もいます。管理職を目指している皆さんも、自分のライフプランに焦りすぎないでください。一生懸命に仕事をしていれば、それを見てくれている人がいて、キャリアアップを後押ししてくれますので。みなさんが考えている将来やりたいことが実現できるよう、無理のない範囲で頑張ってください。
墨 情報を入手できるアンテナ持つことが大事だと思います。あと、今後子育て生活に入るみなさんは、一人の時間を大切にするといいと思います。自分で振り返る時間も必要ですし、その時間があるからこそ、家族との時間、仕事の時間も楽しく過ごせます。また、私は1年に1つ必ず新しいことに挑戦する、ということを実践しています。新しいことに挑戦すると、必ず新しい出会いがあります。たとえば、ボランティアに参加すると、様々な年代や環境の方と出会います。おばあちゃんや子育て世代の方など。会社とは違う様々な方に出会うことで、そこから「こんな製品が欲しいんだ」といった情報をキャッチすることもあります。ちなみに、数年前からランニングを始めたのですが、これは頭を空っぽにして独りで思考する良い時間となっています。
西村 私のような人でも管理職になれるという安心感を与えられたでしょうか?(笑)運やチャンスはいろいろな所に転がっています。同じ部署で同じ仕事を頑張り続けるのも良いですが、異動することで環境や上司が変わり、新たなチャンスになることもありますので、いろいろな機会を持つと良いと思います。異動も恐れずに。また、自分は運が良いと思うことで、実際にチャンスが巡ってくるものです。前向きに過ごしていくことが大切だと思います。
キャリアアップのためにこれから取り組みたいことを書いたうちわを持って、決意の記念撮影!
女性社員に対するアンケートで浮かび上がってきた「ロールモデルがいない」という課題への打ち手として、「あなたらしいキャリア形成を考える〜女性管理職から学ぶ管理職として大切にしていること」と題し、多様な女性管理職の働き方・考えを知ることで、自分らしいキャリアを思い描き、これに向けた自身のアクションを考える着眼点・ヒントを得ていただくことを目的として座談会を開催しました。
参加した皆さまからは、「キャリア形成を前向きに考えることができた」「自分の次のアクションが明確になった」「会社の取り組みが形として見えて心強く感じた」といった声もいただけました。
今回、女性社員の皆さんと共に新しい未来に向かって一歩踏み出せて、うれしい気持ちでいっぱいです!
今後も女性の皆さまのキャリア形成を会社として支援すべく、テーマ・対象者を変えた座談会やその他の施策を実施してまいります!社員の皆さんと一歩一歩前へ進んでいくこと、私たちもわくわくしています!
人事部DE&I推進チームのメンバーを高橋取締役から会場の皆さんへ紹介
司会を務めた中明聡子さん
座談会終了後、さっそく次の作戦を練ります